2010年4月27日火曜日

岡田温司 『イタリア現代思想への招待』

ジョルジョ・アガンベン、ウンベルト・エーコ、アントニオ・ネグリ、マッシモ・カッチャーリ…。いまや世界の現代思想のシーンは、イタリアの思想家たちを抜きにしては語れない。ジル・ドゥルーズやジャック・デリダらフランスの巨星たちがあいついでこの世を去ったあと、なぜ、イタリア思想の重要性に注目が集まるのか。現代思想の最尖端で、いま何が問題なのか、そしてどのような可能性があるのか。哲学、美学、政治学、社会学、宗教学、女性学など幅広い分野での彼らの刺激的な仕事を、明快な筆致で紹介する。

まさに三面六臂という形容がふさわしい、分野を超え精力的な活躍を続ける岡田温司さん。
本書は、「ラチオ」での連載をまとめたもの。そういえば「ラチオ」はもう出ないんでしょうか。なかなか読み応えのあるいい思想誌だと思うのですが。

最近何かと話題のイタリア現代思想の紹介本。痒いところに手が届くような、実にありがたい企画ですね。といっても邦訳がなかなかないので、もっと痒くなってしまうのがオチでしょうが。いつぞやに触れたアドリアーナ・カヴァレロも言及されています。カヴァレロはジュディス・バトラーが『自分自身を説明すること』で引用していましたね。
アガンベン、カッチャーリ、エスポジトなどなど話題の思想家を丁寧に紹介しています。邦訳がないものについても、各々の思想のエッセンスをちゃんと押さえて書いてくれているので、下手な本を読むよりも勉強になります。

アガンベンと言えば、最近続々と刊行されていますね。ここ半年では『思考の潜勢力』(月曜社)、『言葉と死』(ちくま)、『王国と栄光』。あと岩波から『アガンベン入門』なるものも出ています。何かと毀誉褒貶が激しいですが。アガンベンへの批判ってみんながみんな似通ったことを言っている気がするんですが、どうなんでしょう。特に「フーコー主義者」の人はやたら手厳しいですね。とりあえず、これでホモ・サケル三部作の訳書が揃った訳ですし、一通り読んでからにしましょう。『ホモ・サケル』と『例外状態』くらいしか読んでいないので。アガンベンブーム、来るのでしょうか。

カッチャーリと言えば、『多島海』は一体いつになれば……。月曜社の近刊予告に出てはや数年、といった感じですが。「(理念としての?)ヨーロッパ」というのははっきりいってよく分からないので、ぜひ読みたいのですが。そういえば竹内好は「方法としてのアジア」のなかでこんなことを言っていましたね。

西洋的な優れた文化価値を、より大規模に実現するために、西洋をもう一度東洋によって包み直す、逆に西洋自身をこちらから変革する、この文化的な巻返し、あるいは価値の上の巻返しによって普遍性を作り出す。東洋の力が西洋の生み出した普遍的な価値をより高めるために西洋を変革する。(『日本とアジア』pp.469)

何やら謎めいた一節ですし、これだけだと誤解を招きかねないところだとは思います。だけれども、場合によってはこの竹内の思想とカッチャーリの「ヨーロッパ」がどこかで響き合うのかもしれない、とは思う訳です。そのためにも、ぜひぜひお願いします。

この他にも色々と紹介しています。その他言及されていた人々についてはhttp://guards-dance.blogspot.com/2008/06/blog-post_19.htmlが丁寧に起こしてくれています。ご参照まで。

アウトノミア関係の話がもう少しあってもいいとは思いましたが、それは欲張り過ぎというものでしょう。そういやフランコ・ベラルディは出てきませんでしたね。ちょっと毛色が違うのかな。

数年後には、ここに載っていた思想家たちの著作が少しずつ邦訳されていくことになるでしょう。確かに面白いもの。でも早く読みたいなぁと思ったら、イタリア語を勉強する方が早いかもしれないですね。僕としても、これは読んでみたいなぁと思う本がいくつもいくつもありました。

ただの紹介本には留まらない、とても有用なイタリア現代思想ガイド+解説書です。
これを読んで「フランスの時代は終わったね、これからはイタリアだよ」とかのたまってみたい人にもいいんじゃないでしょうか、ただそんなこと言うと失笑されるリスクはあります。

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