2010年4月29日木曜日

依田高典 『行動経済学—感情に揺れる経済心理』

完全無欠な人間が完全な情報を得て正しい判断をする―これが経済学の仮定する経済人である。だが、現実にはこのような人間はいない。情報はあまりに多く、買い物をしたあとでもっと安い店を知って後悔する。正しい判断がいつも実行できるわけではなく、禁煙やダイエットも失敗しがちだ。本書は、このような人間の特性に即した「行動経済学」を経済学史の中に位置づけ直し、その理論、可能性を詳しく紹介する。

経済学についての素養は全くないままに、とりあえず話題だからということで読んでみました。なんだか構成があまりよくないし、重複する内容が繰り返されるのはちょっとアレですが。経済学関係の書籍(特に新書)は活発ですね。

伝統的な経済学と行動経済学の最大の違いは人間の合理性についての認識にあるとのこと。

伝統的経済学では、人間を完全に合理的であると考えるところから出発する。もちろん、だからといって、経済学者が、人間が本当にホモエコノミクスのように振る舞うと信じている訳ではない。完全合理性の仮定から予想される均衡経済の状態を考え、実際の人間の合理性が不完全であるならば、現実の経済がどの程度均衡状態から外れるのかを考えれば良かろうと思っている。…だが、そのような迂回したアプローチで本当に痒いところに手が届くのかどうかはよく分からない。

人間の合理性には限界があって、現実の経済は完全合理性の仮定した均衡状態と一致することはない。であるならば、人間の非合理的に見える行動を分析することを経済学に組み込まなくてはならない。この発想が行動経済学の基底にあるものなんだろう。だから、人間の対象把握や行動を分析する認知心理学のような学問と行動心理学は親和性が高いし、そこで見られる知見をモデル化(数式化?)することによって、より精度の高い経済行動の把握に努めることになる。ヒューリスティックスなんて認知心理学以外で聞くことになるとは思わなかったよ。

話がごちゃごちゃしていますが、おおむね親切に説明してくれているので、確かに経済学の知識がなくても読むことができる…はずです。が、正直言って第3章あたりはちょっときつかったなぁ。数式の意味がよく分からなかったり。あと、読むことはできるとはいっても、ある程度知識をもった上で本書を読むのとでは、全然違うと思う。やっぱりある程度勉強してから、こういう最先端(?)のを追うべきだなぁ、と改めて思いました。

経済学で、こういう問題意識から新たな学問が発展していくというのはとても面白いこと。ただ、終盤部の脳科学と経済学との関係はちょっといかがわしさと危うさを感じます。脳科学ってちょっと怪しい、いやだいぶ怪しい。ロンブローゾの後を継いだ学問になりかねないなぁ、と。脳科学者もなんだか怪しげな人たちばっかだし。
あと、経済学というのはどこまでいってもマネージメントのための学問ですね。国家の学といってもいいけれども。行動経済学の発展は、より精確に個人の行動を国家や企業によって管理することへと間違いなく帰結するでしょう。あぁ罪深い。。特定検診・特定保健指導なんかを肯定的に評価しちゃって…。「効用」というマジックワードをこうも汎用的に使ってみせるのはさすがは経済学者だな、と。健康+長寿が即「将来のより大きい効用」とかおめでたいと言うかなんというか…
誰かアナーキー経済学でもやってくれりゃいいのに。いつまでも恭順な犬でいいのか、立ち上がってくれよ。
あぁ、相性の悪さ故に言わなくてもいいことを言ってしまった。単に理解できないことに対する僻みなのであまり気にしないでください。

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