2010年4月3日土曜日

木下古栗 『ポジティヴシンキングの末裔』

たかぶるだけ
たかぶらせておいて
帰宅。
〈想像力の文学〉から著者初の単行本刊行。

まったくもって毛深い体質ではなかったはずなのに、ある朝、純一郎が目覚めると、手足が自らの陰毛によって緊縛されていた……(「ラビアコントロール」)。枕に額を預けて目をつむった。眠りの底なし沼に沈みそうになる。このまま性器をまさぐり出せば俺はマスターベーションを避けられないだろう……(「糧」)。不可思議な官能のスパイスがまぶされた約30篇が競演する初作品集。

こんな本の感想を書くなんて、こっちが恥ずかしくなりますが。
「たかぶるだけ たかぶらせておいて 帰宅。」
というコピーに惹かれて買ってしまいました。

しかもこんな本をお薦めするなんて、もっと恥ずかしくなりますが。
早川から出ている謎のレーベル「想像力の文学」の一つです。
実にくだらない。本当に、本当に下らない。下ネタとグロネタのオンパレードです。しかもそれが30篇以上も続く。読んでいて吹き出すこと、ドン引きすること、突っ込みを入れてしまうこと、多々あります。

書き出しからすでに独特の雰囲気が漂っていて、やられてしまいます。
ところどころ書き出しだけ拾い上げてみると、
「ある未明、有閑マダムたちの住む高級住宅街の路地に大量の馬糞がばらまかれた。」
「内藤がへべれけになって帰宅すると、奥の部屋から苦しそうな呻き声が聞こえてきた。またしても中山が勝手に筋肉を鍛えているのだ。」
「この場に掲載するにはあまりにもお得な極秘情報が続々と入ってきている。」
「血気盛んな比較的薄着の青年たちが、いっせいに意味不明の言葉を怒鳴り合う。」
「ユッサユッサと揺れる中年女性の乳房。それは目にして嬉しい代物とはかけ離れている。」

…どうなんですかね、これ。こんな書き出しだったらまぁとりあえず読むしかないじゃないですか。で、読んでしまいます。でも、唐突に場面が変わったり、意味不明の展開になっていって読者が宙づりにされてしまう。互いに繋がっている短編もあったりするので、またページをめくるとまた書き出しに惹かれて読んでしまう。そんなこんなであっと言う間に読み終えてしまって、「…これは一体なんだったんだろう」と呟くことになります。なんてくだらない本を買ってしまったんだと思い、しかもそれを取り憑かれるように読んで、しかも感想まで書いてしまうなんて。
この人ただ者じゃないですね。81年生まれですか、若いですね。まぁ40〜50代の人がこれを書いていたら、ちょっと心配になってしまいますが。
不必要にも思える反復や切れ目なくダラダラ続く文章も、著者ならではの世界観を形作る一助になっていて、いい感じです。これだけ独自の(しかも一目見て異常と分かる)世界を創れる書き手って評価したくなります。宙づり感と下ネタ、妄想の暴走が面白いです。
自信をもって薦めるわけではありませんが、個人的には当たりでした。長いの読んでみたいな。

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