2010年5月12日水曜日

森見登美彦 『四畳半神話体系』

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。

周りには「えっ?」と引かれても、好きですよ森見登美彦。エンタメ小説なんだから面白くなきゃ。面白くないエンタメ小説なんて最悪だと思います。

ここまでやり切ってくれれば、もう文句の付けようがないでしょう。レトロな重々しさを装った独白調も、突っ込み待ちのボケも、ばかばかしい設定も、マニアックな京都ネタも、大学院などによくいそうなキャラクターも、みんないい。もちろん黒髪の乙女も。中村佑介さんのイラストがよく似合う。

どこがいいの?と聞かれても、僕自身が森見登美彦の小説を、いつもある種の共感でもって読んでしまうので、客観的な評価なんてできるわけがない。
だけどここに一つ問題があって、それは、僕が本谷有希子『生きているだけで、愛』はあんなに毛嫌いして、なんで共感するのか分からない、とか言っておきながら、森見登美彦にはあっさり共感してしまったということ。たまたま自分がそうじゃなかっただけで、本谷有希子の小説に共感する人はたくさんいる。
なのに、やっぱり自分の感性でもって小説は読むしかないから、どうしても好き嫌いが出てしまう。この「共感」というもの、あるいは共感が作り出す「読者」という集団ってよく考えるとけっこう不思議な代物。だから、客観的な評価なんてそもそもありえない、わけで。ただ、その他方で、名作と呼ばれる作品や、誰もが評価する小説が存在することも真実。こういう問題ってなんだか美学の学問領域の話みたいですね。まぁ僕が言いたかったのは、僕は森見登美彦は面白いと思う、というだけのことです。

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