2010年2月18日木曜日

池内恵 『イスラーム世界の論じ方』

日本の言説空間の閉塞状況を乗り越え、時々刻々変化する国際政治システムにおけるイスラーム世界の全体像を内在的かつ動的に把握するための枠組みを提示する。

2009年サントリー学芸賞。
盛り沢山な内容です。中東を始めとしたイスラーム圏の政治状況はもちろんのこと、ヨーロッパの移民政策や日本のイスラーム研究者やメディアへの批判、アラブ思想家たちのアメリカへのまなざしや、中東のメディア分析まで、広範に論じています。
前半はやや専門的な論文、後半は雑誌や新聞への寄稿を中心に構成されていて、後半は時事批評がメインとなっています。
こうした時事批評を現在に読むことの意味はなんだろう、という気もしますが、やはり彼の分析は冷静かつ明晰ですね。こうした時事批評からも、彼の姿勢や視点などが汲み取れます。誤解や無知、無関心がついてまわるイスラーム報道Covering Islamや彼らを理想化させ、そこから反米意識を取り出し、共有しようとする研究者への不満、あるいは苛立ち(しかしイスラーム研究者は須らく池内氏が批判しているような姿勢なのだろうか?)、イスラームを研究するなかで見えてきたイスラーム国家の現状へのペシミスティックな諦念にも見える態度や、そんな中でも現実を冷徹にまなざしつつける姿勢。そうしたものがとてもよく読み取れる。
あまりに現実主義的な分析には、ちょっとなぁ…と思うところがない訳ではないですが、研究者というよりもジャーナリストに近いなぁ、という印象です。あるいはこういった思考とするのが国際政治学なのか。この間読んだ『現代アラブの社会思想』とはちょっと印象が違いますね。
ただ、やはり面白いです。沢山の発見があります。イスラームや中東の現状について、あまりに多くのことを知らなかったのだなぁということを気付かされます。
個人的にはイスラーム思想の研究をもっとして欲しいなぁと思うのだけれど。

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