2009年6月17日水曜日

前田司郎 『夏の海の半魚人』

「力みゼロ、の演劇界の鬼才」が描く、 リアルな響きの「エデンの園」
小学5年・魚彦。ちょっとオカシイ母、足の不自由な親友・今田、転校生の海子……。魚彦の日常と、日常に潜む「エデンの園」からの旅立ちを描いた、不思議でリアルな物語

今年の三島由紀夫賞ですね。短いですが、とても好きな小説です。
なんというか「分かる」んですよね。そして思い出す。
あぁ、こんなだったかもしれないって。確かにこんなこと考えてた、こんなことしてた、こんな風に過ごしていた。ヘドロの海坊主のような魚彦の感情の爆発も、主人公気取りも、悪人ぶりたい気持ちも、ヒーローになりたい気持ちも、大人になりたい気持ちもそれを表に出すことを恥ずかしく思う気持ちも。これは僕たちが通ってきた路なのだろう。

タイトルもこれでいいのか分からないし、文章も不自然なところもいくつかある。けれどもそれはさほど気にならない。最後の終わり方も、恐らくこれ以外には考えられないだろう。
「瑞々しい」という言葉はあまり好きではないけれども、そう使わざるを得ないような、澄んださらっとした美しさがある。
友人は「エロい」と評していたけれどもそれもわかる。ただ、その「エロさ」ってのは例えば僕たちが小学生の時に思っていたような「エロさ」なんですけどね、官能性の対極にあるような。

そういえば、僕はこの街に生まれたらしい、彼らと同じ五反田に。その後物心つく前に郊外に越してしまったけれども。そんなこともあって、僕はこの小説は好きですね。

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