2009年6月22日月曜日

ヴィクトル・ペレーヴィン 『眠れ』

コンピュータゲームの世界と一体化した中央官庁に働く職員、自我の目覚めを経験して苦悩する倉庫、夢の中で生活する学生、死の意味をめぐって怪談を続ける子供たち…。この時代に存在するものすべてを哲学的幻想で包み込み、意識のまどろみの中で変身話から東洋の宗教思想まで味わいつくす作品をつぎつぎと生み出すロシア新世代の作家ヴィクトル・ペレーヴィン。20世紀の終りに現われた異才の浮遊する世界。

なんというか…、こんなぶっとんだ短編集読んだことなかったかもしれません。倉庫が主人公かと思えば、ブロイラーが主人公だったり、ゲームと現実が渾然一体となった世界を描き出したかと思えば、眠りながら生活する術を学び、みんなが眠っていることを発見する…。
でももちろんただ面白いだけではない。この一つ一つの話がそれぞれ寓意的だし、その根底には様々な思想がない混ぜになった哲学のようなものが流れている。社会諷刺ももちろん。例えばブロイラーの話であれば、それを擬人化して描くこと、それ自体が一つの有効かつ意表をつく表現方法だけれども、それが再び人間に跳ね返ってくる。鶏の話のはずなのに、工場の中の話のはずなのに、なぜかそれが社会諷刺としても読めてしまう面白さ。
あちこちに鏤められたオリエンタリズム(というかロシアなんだから東じゃなく南なんだけど)的演出をどう考えるのかは、解説でも指摘されていた通り微妙な問題だとは思います。作為的ですらあるような気もしますけれど。しかし、これは面白い。62年生まれなんですね。ロシアの現代文学ってこんな人も出てきているのか、と驚きました。他の著作にも手を出してみたいなぁ。

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