二十世紀を代表する歴史学の大家が、代表作『物質文明・経済・資本主義』における歴史観を簡潔・明瞭に語り、歴史としての資本主義を独創的に意味付ける、アナール派歴史学の比類なき入門書。時間軸を輪切りにし、人間の歩みを生き生きと描き出す、ブローデル歴史学の神髄。
周知の通り『物質文明・経済・資本主義』の要約版です。資本主義のダイナミクス。
アナール学派について、詳しいことは全く知らない状態だったので、なかなか勉強になりました。面白いのは、この本にほとんどいわゆる「歴史上の人物」が登場しないこと。人物と人物を、出来事と出来事を線で結ぶ歴史ではなく(そして単線的ではなく)、長いスパンの内部での様々な変動をそれこそ教会簿などの諸史料を分析することによって市井の人々の動き(人口変動)、生活などを浮き上がらせる、歴史「空間」のようなものを作り出すこと、それが彼らにとっての歴史を書くことなのかな、と感じながら読んでいました。資本主義についての彼の認識は面白いですね、「近代」を特権化することなく、それこそ数百年単位の(緩慢にも見える)変動のなかで捉えようとしていく。ウォーラーステインの世界システム論と響きあうところがあり、また相違するところもある、とはブローデル自身が言及していること。この辺も勉強不足なので何ともいえないのですが。
また、「資本主義が階層を発明したのではなく、資本主義は階層を利用しているだけ」である、という指摘は面白いですね。どっちが卵かという話ではなくて、再帰的に両者が結びついているということでしょうか。彼の言う「物質文明」について、もう少し詳しく知りたいなぁ。
あと一つ二つ。「世界史」というのが実質的には「ヨーロッパ史」であったことについて。この「世界史としてのヨーロッパ史」というのは、「世界時間」の章で触れられるとおり、このときの「世界」とはそれがひとつの「世界-経済」でしかないのに、あたかもそこに外部のない普遍的な「世界史」として描かれてきたこと。非-西洋地域の歴史をヨーロッパ史の味付けでもなく、発展史的に位置づけることもなく語ることの重要性を、ブローデルはある程度言及しているように思える。でもアナール学派って、基本的にはヨーロッパ史にとどまるんですよね。
あと、ブローデルがもし生きていたとすれば、今日の世界をどのように見たか。今日の世界は単一の都市を中心に形成される秩序としてはもはや捉えられないだろう。ニューヨーク、ロンドン、東京などの「グローバル・シティ」の上部はもはや切り離すことのできないひとつのネットワーク構造だろうし、もはや明確な中心もない。この点を彼ならばどのように考えるのだろうか。
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