2009年11月23日月曜日

ロドリゴ・レイローサ 『船の救世主』

「恐怖や脅威は、私の小説の主要なテーマのひとつだ。特定の人間に対して感じる恐怖ではなく、見知らぬ環境や状況がもたらす恐怖だ」

「小説家としての私のキャリアにおける最大の事件は、モロッコへ出かけたことと、グアテマラで生まれたことだと思っている」             
         ・・・・ロドリゴ・レイローサ

なんとも奇妙な中篇です。冒頭、主人公である海軍大将が沈んだ船を引き上げる作業を監督している(すでにこの時点でどこかおかしい)。そんななか、「各国を戦争に追いやったウイルス」や「地球規模に広まった自殺熱」への恐怖から軍人を対象に心理検査が行われることになり、そのために大将は嫌々ながら首都に帰っていく。このあたりは(軍人による)独裁体制やそれに起因する(のか?)世界大戦を念頭においているのだろう。その後、心理検査で「異常」と見做されることを恐れる、「厳格で模範的な軍人」である大将はこっそり図書館で心理学の本を漁り予習しようとするのだが(小心というかせこいというか…)、そこに妙な男が現れ、彼に謎めいた冊子を手渡す…
という感じです。短いですけど面白い。そして何より「奇妙」です。正常と異常の間と現実と幻想の間。視点も大将の側になったかと思えば、次の章では分析医のそれになる。読んでいくとその「妙な男」は実在したようにも読めるし、大将の幻覚に過ぎないような気もしてくる。
マクレランド図版のある図版になぜあんな過敏な反応を大将が示したのかもよく分からないし、パンフレットの内容も謎めいている。荒唐無稽なようにも見えるけれども、それなりに意味があるないようにも読める…。そしてラストである人物がそのパンフレットの一句を想起するのは何故だろう…、とかよくわからないところも沢山あるけどそれもまたよし。ラストにはびっくりですが。「正常」と「狂気」の線引きを混乱させる、そんな小説。いつから「頭がおかしくなった」なんて、あまり意味はないですね。ここでの狂気は、個人のそれでもあるし、組織におけるそれでもあり、また世界にウイルスのように蔓延するものでもあるようです。面白いですよ。

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