2009年3月26日木曜日

高階秀爾 『近代絵画史 上・下』

人はしばしば、思いがけない絵に接してとまどい、時にこれが絵画かとさえ疑う。しかし、一見わけの分からぬ抽象画や不気味なシュールレアリズムの作品も、決して画家の気紛れや偶然の産物ではない。ルネサンス的世界像の崩壊に伴い、近代絵画の流れの中で生まれるべくして生まれてきたのである。このような情況を、19世紀初頭から第二次大戦まで、代表的な画家の業績と美学的理念、表現方法を通じて明らかにする。

近代西洋美術に興味がある人なら恐らく読んだことがあるであろう、高階さんによる近代西洋美術史概論。
今日でも75年に刊行された本書は、いまだに近代西洋美術史に関する最良の入門書であり続けているように思う。
内容としては、ゴヤからモンドリアンまでという副題通り、印象派登場の要因の一つをなしていたロマン主義から抽象絵画までの「流れ」を概観しており、非常に「オーソドックス」な形で美術史が論じられている。
印象派から抽象絵画まで、あるいはモネからボロックまでの絵画史を一つのナラティヴとして語るやり方は、書かれた当時(あるいは今日でも)優勢なものとなっており、本書もそうした手法に則っている。本書ではモンドリアンまでだが、しばしばボロックを一種の到達点として従来の近代美術史が描かれてきたことに、恐らく私たちは注意深くなる必要がある。こうした美術史観はアメリカの美術史家によって打ち立てられたものであり、モネからセザンヌ、ゴッホ、ピカソ、モンドリアンなどを経由しつつボロックに至る、という一種の発展史観に根付いたものであり、逆にいえばそこには直接結びつかないもの、同時代には高い評価を得ていたにもかかわらず現在の評価が低いもの(そもそも誰が評価するのか?)などは軽視されるか、場合によっては捨象されてしまう。例えば、ラファエル前派しかり、19世紀の宗教画しかり。
(そもそもある画家の一連の作品を歴史的な「役割」として位置づける姿勢は妥当ではないと思う)

勿論、高階さんほどの美術史家ならばそのことも十分理解できているであろうし、本書はあくまで新書の体裁で作られた入門書である。だから間違っても本書を読んで、近代西洋絵画を理解したなどということはできない。そのための入り口を提供しているに過ぎないのだから。

とはいえ、これだけのサイズの本にここまで詰め込めるものか、と驚嘆した。印象派登場をもたらした要因の分析は実に見事だし、美術史家としての含蓄の深さ(僕は印象派登場とコンスタブルにおける筆触分割的傾向がドラクロアを介して結びついていたことは全く知らなかった)はさすが、と思わせるものがある。美術史にそれなりの知識がある人も、そうではない人も十分に楽しめる著作だと思いました。
あと、図版がほとんどないので、画集やネットなどで作品を見ながら読み進めていくとより深く理解できるのかな、と思います。この本を読んで一人でも多くの人が絵画好きになりますように。




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