2009年3月22日日曜日

堤未果 『ルポ貧困大国アメリカ』

「新書大賞2009」第1位だそうです。うちの店でも長い間売れ続けている本なのでようやく手を出してみました。

とても緻密に質的調査と量的調査が行われていて、説得力があります。貧困と肥満の関係については初めて理解できました。80年代以降(そして90年代以降更に拡大していくことになる)のアメリカが抱える問題について教育、軍事、医療など様々な観点から考察を進めていて、読み応えのある内容でした。
レーガノミクス以降のアメリカの変容の一つに、もはや対外競争力(対内競争力も)失った製造業に代わるものとして金融やIT産業などへの傾斜化が挙げられるでしょう。それは金融サービス等に携わる「シンボリック・アナリスト」や高度専門技能者の高所得化をもたらし、他方ではそれまで製造業や農業によって生計を立ててきた人々の低所得化(本書の中では中間層の崩壊としています)をもたらしました。もちろん、これらの産業がご破算になったというよりも、より経営効率を上げるために彼らの所得を切り下げ、同時に工場を海外進出していったことがあるでしょう。農業においても企業ビジネスが浸透することによって従来の農家がもはや立ち行かなくなったことがいえると思います。そしてそれ以上に決定的だったのが本書でも再三指摘されている通り「民営化」の影響です。これは彼らの生活を直撃し、本書でつぶさに記述されているような状況―「貧困」―をもたらすことになりました。そして民営化と一体になった市場化は彼らの領域をも食い物にしていきます。サブプライムローン、医療制度の崩壊…更にこれに軍需産業が関わるわけですから。「不法」移民を「合法化」をエサに軍隊に勧誘したり、大学進学をエサにして貧しい学生を勧誘したり。なんてゆう情況なんでしょうか。
そしてなによりも滑稽なのは、これまで散々大儲けしてネオリベ万歳とのたまってた人々が一挙に政府による資金注入やら規制やらを求める様。さもしい。彼らよりも、今後本書で取り上げられていたような貧困層はますます困窮状態に陥ることを考えると、ちょっとやりきれなくなります。企業の保護よりもこうした明日の生活も立ち行かない人々の生活を守ることのほうが大切な気がしてしまいます。

そんな中、著者はなんとか希望を見出そうとしています。ビリー牧師しかりAMSAしかり。だけれどもこうやって一旦動き出した壮大な装置を止めるのは容易なことではないでしょう。政権が民主党に変わって2ヶ月ですが、何が変わりつつあるのか僕にはまだ見えてきません。国家の役割はそこに住まう人々の生を担保することにある、違いますかね。


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