1984年、ある夏の朝。北カリフォルニアの山中で14歳の娘とふたり、ジャンクにクレイジーに暮らすヒッピーおやじゾイドの目覚めから物語は始まる。ゾイドを執拗に追う麻薬取締官、娘を狙う連邦政府、その権力の魔の手から逃れながら、母探しの旅に出る娘。そして物語は60年代へ、ラディカル映画集団の一員だった母の記録映像を見る娘の眼差しと共に、バークリィでのデモ隊と機動隊の衝突現場へズーム・インする。闘争の渦中で母を救出するDLは、マフィアのドンに雇われ殺人忍法を操る「くノ一」。その女忍者とコンビを組むカルマ調整師のタケシ、彼らにカルマを調整してもらうヴェトナム戦争の死者のゾンビ「シンデルロ」…次々と出現する登場人物を巻き込んで、仕掛けに満ちたピンチョン・ワールドは時のうねりの中を突き進む―全米図書賞受賞の大作『重力の虹』以来17年の沈黙を破って発表された本書は、ギャグ満載のポップな装いの下に、輝けるアメリカを覆う呪われたアメリカ、官憲国家の狂気を、繊細に重厚に、ときにセンチメンタルに描き出す。名訳をさらに磨きあげ、注釈も全面改訂。
完全にやられてしまったので、全く読むに耐えない感想ですが、とりあえず断片的に。
この小説には語らなくてはいけないことがあまりにも多すぎる。そして僕が語れることはあまりに少なすぎる。
A
世界全集の方で読みました。そちらの方が1000円くらい安かったので、待った甲斐があったかなと。
B
すごい、というとバカの一つ覚えみたいですが、すごいとしかいいようがない。「カオスの縁」って言葉を思い出しました。λ=0.273って何のこっちゃわかんないし、カオス理論なんて分かるわけもなく、ただ比喩として。秩序でもカオスでもなく、もっとも複雑でもっとも多様な状態。ここに限りなく近い小説じゃないかと。
C
チープでポップでキッチュなものをひたすらに集めてそれらを組み合わせる。その果てにできた不可思議かつ巨大な機械、それがこの小説のような気がする。ガラクタ(少なくともそう見えるもの)を集めて、こんな機械を作り上げるピンチョンは、やはりとんでもないマッド・サイエンティストでしょう。60年代も70年代も80年代も知らない、しかも日本に生まれた僕にとっては理解に苦しむ世界。ゴテゴテして、サイケデリックで、くだらない。けれども(だからこそ、か?)抜群に面白い。ニヤニヤしながら読んでいました。
D
そういえば「再会の時」って映画があった。あれは1983年らしい。レーガン政権下で60年代の回顧が起こるって分かるような分からないような。ともあれその映画は、60年代後半の時に大学生活を一緒にすごした仲間のうちの一人がある日自殺をしてしまって、彼の葬儀で十数年ぶりに仲間に再会するところから話は始まるんですけど、この映画の根底にひたすら流れているのはやはり1968年前後とその頃の自分たちへのノスタルジー。登場人物の一人が仲間に向かって「あれがファッションだったなんて思いたくない」、って言う。ノスタルジーは別にいい。この映画が一番皮肉なのは、68年前後の連帯togethernessにも関わらず、それから十数年間会いもしなかったということ。そしてある者の死を通じて再会し、再び結びつく。この辺が全く理解できない。ましてや日本の云々は… まぁいいや。
E
レーガンの「古き良き、そして強いアメリカ」もアメリカならば、ここでピンチョンの描くアメリカは「もう一つのアメリカ」なのだろう。いや違うか、同じアメリカの別の顔か。世界中に毒を撒き散らかし続けるこの国は、必然的にその内部にも毒を撒き散らかしてきた。そしてその毒を喰らいながら肥大化し続ける国、必然的に病を抱え込んだ国。レーガンやらニクソンやらにも痛罵が飛び交いします(それもまたよし)。
F
あと、ラストの寓話は何とも痛烈。これは読んだ人のお楽しみなので伏せておきます。
けれども、最後には彼らはホーム(故郷=祖国)を発見する。そして朝になり光が差し込む。
とてもいい終わり方。
G
軽妙な文体がいいです。癖になります。引き込まれる。日常生活でも会話や空想、映像の世界にいつのまにか引き込まれるということありますが、小説でここまで再現できるのってすごいと思います。気付いたら60年代になってたり、ふと現在に引き戻されて「あれっ?」ってなったり。
H
翻訳がやりすぎとか言われてますが、Against The Dayを序盤早々にあっさりと挫折した僕から言わせれば、じゃあ原書で読めば、ってこと。
I
繰り返し読み返すことになるだろうな、という予感。読むたびに発見がありそう。注釈などに触れられている音楽・ドラマ・映画などについてもっと知っていれば、と思う。そうしたらイメージが爆発的に広がるんだろう。そんな広がりを秘めた小説。僕はこの一端しかまだ知りません。
2010年1月12日火曜日
2010年1月8日金曜日
長嶋有 『猛スピードで母は』
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。
長嶋有、初めて読みました。文学界新人賞×芥川賞×大江健三郎賞ってどんなもんだろうと思いましたが、そう大騒ぎするほどでもないですね。まぁ面白かったですけれど。いまとある文学賞の下読みをしているのですが、もしこういった作品がそんなかに交じっていたら、確かに高評価を付けます。そつがないといえばいいのか、男性も女性も子どもも、上手に描きますね。うん、「そつがない」とか「こじんまり」とかいう評価がぴったりな気がする。これを読む限り、大江がなぜ第1回の大江健三郎賞にこの作品を選んだのか分かりません。受賞作が優れているのか、それともそれだけ文学の枯渇化が進んでいるのか。安藤礼二が受賞したのは判る気がするけど。
なんかもっとこう、読後に頭がぐちゃぐちゃになっちゃうような、そんな小説が読みたいなぁ。僕にはちょっと淡白でした。味が濃いほうが好きなので。
長嶋有、初めて読みました。文学界新人賞×芥川賞×大江健三郎賞ってどんなもんだろうと思いましたが、そう大騒ぎするほどでもないですね。まぁ面白かったですけれど。いまとある文学賞の下読みをしているのですが、もしこういった作品がそんなかに交じっていたら、確かに高評価を付けます。そつがないといえばいいのか、男性も女性も子どもも、上手に描きますね。うん、「そつがない」とか「こじんまり」とかいう評価がぴったりな気がする。これを読む限り、大江がなぜ第1回の大江健三郎賞にこの作品を選んだのか分かりません。受賞作が優れているのか、それともそれだけ文学の枯渇化が進んでいるのか。安藤礼二が受賞したのは判る気がするけど。
なんかもっとこう、読後に頭がぐちゃぐちゃになっちゃうような、そんな小説が読みたいなぁ。僕にはちょっと淡白でした。味が濃いほうが好きなので。
2010年1月2日土曜日
平野啓一郎 『ドーン』
最高の純文学にして究極のエンターテインメント! 2033年、人類で初めて火星に降りたった宇宙飛行士・佐野明日人。しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。世界的英雄・明日人を巻き込む人類を揺るがす秘密とは?
Amazonレビューは高評価ですが、僕的にはイマイチです。
いや、きっと言いたいこと、考えたいことが色々あって、それらを真摯に小説に詰め込んだんだろうし、宇宙船からネットメディア、監視社会、国際関係やアメリカの選挙にいたるまで、これだけ詰め込める、描きこめるというのは評価されるべきなんだろう。分人主義dividualismとか不領土国家とかアイディアもおもしろいのかもしれない。でも分人主義ってだから何だね?って感じです。ゴッフマン的な話かと思ったらそれだけじゃないような感じになっていって、なんでもかんでもこの言葉で片付けようとしていく。便利でかっこいい言葉ですが。
不領土国家もすごいですね、脱‐領土化とか再‐領土化とか話している中でいきなり「不」領土国家ですからね。しかも信託(?)会社がやっているような感じの描き方もなかなかはっちゃけているなぁ、と。
でも全体的にはこれ面白くなかったんですね。なんでだろう。まず文章自体に色気が全くないのが嫌ですね。それに人間がロボットくんとロボットさんみたい。血が通ってない、平野さんのマリオネットでしかない。あとせっかく初めて火星に降り立ったんなら火星の話をもっとしてくれよ、とか思ったり。「最高の純文学」(惹句より)なら誰も行ったことがない火星の様子を文学的に表現してみせてくれよ、と。もはや言いがかりですが。
色々アイディアや思うところはあるんだろうけど、「詰め込みすぎ」です。散漫な感じ。総じて、登場人物も火星への有人探査も、大統領選もすべては舞台とその書割でしかない。内容は平野さんの独り語りです。ちなみに僕は無重力空間で人はいかにして性交渉を行うのか、そればっかり気になりました。
Amazonレビューは高評価ですが、僕的にはイマイチです。
いや、きっと言いたいこと、考えたいことが色々あって、それらを真摯に小説に詰め込んだんだろうし、宇宙船からネットメディア、監視社会、国際関係やアメリカの選挙にいたるまで、これだけ詰め込める、描きこめるというのは評価されるべきなんだろう。分人主義dividualismとか不領土国家とかアイディアもおもしろいのかもしれない。でも分人主義ってだから何だね?って感じです。ゴッフマン的な話かと思ったらそれだけじゃないような感じになっていって、なんでもかんでもこの言葉で片付けようとしていく。便利でかっこいい言葉ですが。
不領土国家もすごいですね、脱‐領土化とか再‐領土化とか話している中でいきなり「不」領土国家ですからね。しかも信託(?)会社がやっているような感じの描き方もなかなかはっちゃけているなぁ、と。
でも全体的にはこれ面白くなかったんですね。なんでだろう。まず文章自体に色気が全くないのが嫌ですね。それに人間がロボットくんとロボットさんみたい。血が通ってない、平野さんのマリオネットでしかない。あとせっかく初めて火星に降り立ったんなら火星の話をもっとしてくれよ、とか思ったり。「最高の純文学」(惹句より)なら誰も行ったことがない火星の様子を文学的に表現してみせてくれよ、と。もはや言いがかりですが。
色々アイディアや思うところはあるんだろうけど、「詰め込みすぎ」です。散漫な感じ。総じて、登場人物も火星への有人探査も、大統領選もすべては舞台とその書割でしかない。内容は平野さんの独り語りです。ちなみに僕は無重力空間で人はいかにして性交渉を行うのか、そればっかり気になりました。
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