2010年1月8日金曜日

長嶋有 『猛スピードで母は』

「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。

長嶋有、初めて読みました。文学界新人賞×芥川賞×大江健三郎賞ってどんなもんだろうと思いましたが、そう大騒ぎするほどでもないですね。まぁ面白かったですけれど。いまとある文学賞の下読みをしているのですが、もしこういった作品がそんなかに交じっていたら、確かに高評価を付けます。そつがないといえばいいのか、男性も女性も子どもも、上手に描きますね。うん、「そつがない」とか「こじんまり」とかいう評価がぴったりな気がする。これを読む限り、大江がなぜ第1回の大江健三郎賞にこの作品を選んだのか分かりません。受賞作が優れているのか、それともそれだけ文学の枯渇化が進んでいるのか。安藤礼二が受賞したのは判る気がするけど。
なんかもっとこう、読後に頭がぐちゃぐちゃになっちゃうような、そんな小説が読みたいなぁ。僕にはちょっと淡白でした。味が濃いほうが好きなので。

2010年1月2日土曜日

平野啓一郎 『ドーン』

最高の純文学にして究極のエンターテインメント! 2033年、人類で初めて火星に降りたった宇宙飛行士・佐野明日人。しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。世界的英雄・明日人を巻き込む人類を揺るがす秘密とは?

Amazonレビューは高評価ですが、僕的にはイマイチです。
いや、きっと言いたいこと、考えたいことが色々あって、それらを真摯に小説に詰め込んだんだろうし、宇宙船からネットメディア、監視社会、国際関係やアメリカの選挙にいたるまで、これだけ詰め込める、描きこめるというのは評価されるべきなんだろう。分人主義dividualismとか不領土国家とかアイディアもおもしろいのかもしれない。でも分人主義ってだから何だね?って感じです。ゴッフマン的な話かと思ったらそれだけじゃないような感じになっていって、なんでもかんでもこの言葉で片付けようとしていく。便利でかっこいい言葉ですが。
不領土国家もすごいですね、脱‐領土化とか再‐領土化とか話している中でいきなり「不」領土国家ですからね。しかも信託(?)会社がやっているような感じの描き方もなかなかはっちゃけているなぁ、と。
でも全体的にはこれ面白くなかったんですね。なんでだろう。まず文章自体に色気が全くないのが嫌ですね。それに人間がロボットくんとロボットさんみたい。血が通ってない、平野さんのマリオネットでしかない。あとせっかく初めて火星に降り立ったんなら火星の話をもっとしてくれよ、とか思ったり。「最高の純文学」(惹句より)なら誰も行ったことがない火星の様子を文学的に表現してみせてくれよ、と。もはや言いがかりですが。
色々アイディアや思うところはあるんだろうけど、「詰め込みすぎ」です。散漫な感じ。総じて、登場人物も火星への有人探査も、大統領選もすべては舞台とその書割でしかない。内容は平野さんの独り語りです。ちなみに僕は無重力空間で人はいかにして性交渉を行うのか、そればっかり気になりました。

2009年12月29日火曜日

姫野カオルコ 『もう私のことはわからないのだけれど』

動けないし、しゃべれないし、
もう私のことはわからないのだけれど……。

母は、だれかが自分を訪ねて来てくれたことが、よくわかっています。
いちばんきれいな顔で迎えてくれますから。


母、父、子ども……。家族について
日本のどこかに暮らすごく普通の人がふともらしたつぶやきを、
作家・姫野カオルコが写し取った掌編小説集。

だれにも言えない本当の気持ちを
この本を開く時ならぶつけてもいい。

ひとりで泣くこともある、あなたに贈る愛の詩。


しっとりといい本です。新聞かなにかへの投稿のような形式を取っていて、おやっと思いますが、すぐに引き込まれます。とても優しい世界。まだないけれど、これから親やら親族やらを介護していかなくてはならないことになる。それはきっと愛憎が文字通り渦巻く世界で、とてつもなくしんどいことなんだろう。けれども、そのなかで彼らが呟く言葉、それら一つ一つはとってもシンプルなものの積み重ねなんだけれど、なんともいえない重み、温かさが詰まっている。それが何にも知らない僕にも伝わってくる。そして僕もいつか彼らの側に立つ。その次は彼らに介護される側に。それはどうしようもないことで、ただその日が来るのを待つしかない。けれどそれを待っているあいだに彼らの呟きが聞けたこと、これはやっぱりいいことだったと思う。