2009年12月29日火曜日

姫野カオルコ 『もう私のことはわからないのだけれど』

動けないし、しゃべれないし、
もう私のことはわからないのだけれど……。

母は、だれかが自分を訪ねて来てくれたことが、よくわかっています。
いちばんきれいな顔で迎えてくれますから。


母、父、子ども……。家族について
日本のどこかに暮らすごく普通の人がふともらしたつぶやきを、
作家・姫野カオルコが写し取った掌編小説集。

だれにも言えない本当の気持ちを
この本を開く時ならぶつけてもいい。

ひとりで泣くこともある、あなたに贈る愛の詩。


しっとりといい本です。新聞かなにかへの投稿のような形式を取っていて、おやっと思いますが、すぐに引き込まれます。とても優しい世界。まだないけれど、これから親やら親族やらを介護していかなくてはならないことになる。それはきっと愛憎が文字通り渦巻く世界で、とてつもなくしんどいことなんだろう。けれども、そのなかで彼らが呟く言葉、それら一つ一つはとってもシンプルなものの積み重ねなんだけれど、なんともいえない重み、温かさが詰まっている。それが何にも知らない僕にも伝わってくる。そして僕もいつか彼らの側に立つ。その次は彼らに介護される側に。それはどうしようもないことで、ただその日が来るのを待つしかない。けれどそれを待っているあいだに彼らの呟きが聞けたこと、これはやっぱりいいことだったと思う。

0 件のコメント: