2010年8月24日火曜日

西川杉子 『ヴァルド派の谷へ—近代ヨーロッパを生きぬいた異端者たち』

ピエモンテの谷に住む異端の末裔ヴァルド派。宗教的迫害を生きぬいてきた彼らが、存亡の危機を迎えたのは、17世紀末、時代はすでに「啓蒙の世紀」。谷を守るため、ヨーロッパの啓蒙空間をかけまわるヴァルド派と、彼らを支えたヨーロッパ諸勢力の意外な結びつきを通して、錯綜するヨーロッパの近代を考える。

読了本が積もってしまっているので走り書きで。9月からはちゃんと書きたいと思いますが。

山川から「ヒストリア」というシリーズが出ています。ややマニアックな世界史をややマニアックな切り口でさくっと切り取るとても面白い叢書。2008年で刊行が途絶えていますが、終わってしまったのでしょうか。

ヴァルド派……寡聞にして僕は聞いたことがありませんでした。
起源は12〜13世紀に遡るという。創始者はヴァルデスという高利貸しで、彼は福音書の俗語訳を行い、それを手がかりに説教を始めるようになった。その運動はやがて、聖書に立ち返れ、という教会改革運動に発展していった。つまり、ヴァルド派の教義は宗教改革の先駆け的存在だったと評価することもできる。彼らはそれゆえローマ・カトリック勢力により異端視され、弾圧の対象とされ続けてきた。しかし、その弾圧の網の目をかいくぐり、彼らは自分たちの信仰を守り続けてきた。

本書の舞台はそれ以降、17世紀末のヴァルド派に注目し、丁寧な資料分析によって、この時代をヴァルド派がいかに生きぬいたかを躍動的に描き出している。
面白い点は幾つかあるが、第一には、彼らの信仰が教義の独自性云々よりも、まずローマ・カトリックの歴史的対抗者であり、プロテスタントの盟主として自らを位置づけていたこと、そして「谷」への執着だと思う。彼らは長年ローマ・カトリックの弾圧を跳ね返し続けてきたことをプロテスタント諸国・諸教会にアピールし、それによって援助を獲得し、それをもとに生き延びてきた。教義的には他のプロテスタントとほぼ変わらないが、そうした伝統や自らのルーツである「谷」にアイデンティティのよりどころを見出し、特異性を保ってきたこと。
第二には、彼らを援助するような超-国境的なプロテスタント同士のネットワークが形成されていたことである。そして彼らはそれをうまく利用した。そしてそうしたネットワークと当時の国際情勢は無関係ではなく、むしろ国家間の利害関係とも深く関わるものだったという。宗教改革の時代ではなく、この17世紀に彼らは危機に瀕し、そして同時に彼らを救うようなこうした関係ができ上がっていたことというのは、僕にとっては初めての発見でとても楽しくなってしまった。こういったところから歴史を読むというのはとても刺激的なことだと思う。

面白かったです。勉強になりました。

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