2010年8月6日金曜日

菅瀬晶子 『新月の夜も十字架は輝く—中東のキリスト教徒』

数多い中東のキリスト教の諸教派について、その歴史と特徴を簡単に紹介。キリスト教徒が具体的にはどのような人びとなのかを、衣食住から精神的なものまで、さまざまな実例をあげて解説。キリスト教徒たちが中東の近代化から今日にいたるまではたしてきた役割と、今後の展望について叙述。

山川から「イスラームを知る」というブックレットシリーズが出ていることを知り、手に取ってみた。12冊ほど出る予定で、今も刊行中だけれども、テーマとしてはかなり面白そうなものが揃っている印象。そのうちこの本では、副題が示す通り、中東に暮らすキリスト教徒に焦点を当てている。マロン派とか、コプト教徒とか、〜正教会とか、名前は聞いたことあるけど、どんなんだかよく分かっていなかったので、その辺を整理してくれているあたり、とてもありがたかった。
あと、どうしても彼らの存在ってあまり目を向けられることが少なくて、彼らの内実を知ることはこれまでなかったのだけれども、かなり図版も入れつつ、親切に紹介してくれる。中東ではどうしてもマイノリティにならざるをえない彼らと、マジョリティのイスラーム教徒との微妙な力関係も同様に興味深い。
なかでも、次の2点は印象的だった。
一つは、彼らの信仰や儀式が土着の多神教的な民衆信仰と混淆している、という指摘。そしてイスラーム教徒もまた、こうした民間信仰の影響を受けており、したがって、こうした土着的な信仰の影響が色濃い儀式において、キリスト教徒も、イスラーム教徒も、その異教的な側面は認識しつつも、共に儀式に参加し、信仰を共有する部分があるのだ、ということ。これを「寛容」として捉えていいのかは分からないけれど、それでもとても興味深い。
もう一つが、彼らキリスト教徒が、汎アラブ主義、もしくはアラブナショナリズムの興隆に大きな役割を果たしていた、という指摘。これは教科書的な中東史ではほとんど触れられない点で、私も初めて知った。とはいえ、個人的にまだ中東とその歴史が全体像として把握できていなくて、ここでの記述とこれまで読んできた中東についての知識がどう結びつくのか、ちょっと整理できていないのだけれど。彼らの視点から中東の(そして西洋の)歴史を辿り直すというのはとても面白い試みじゃないだろうか。こういった研究もっと読んでみたいな。僅か112ページのブックレットだけれど、とても勉強になります。

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